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無意識過剰 まえがき(目次)

リレー小説「無意識過剰」
私と後輩Kによるリレー小説。2011年9月6日から約一か月間実施していたものです。
キーワードは「さわやか」「鏡」「裁縫」
2012年4月からのそのそと再開しました。キーワードは「優雅」「ハト」「恋」

とある鏡だらけの屋敷にバイト執事として就職した主人公・空井玲二。
はたして彼は幾多の不愉快を乗り越え、さわやかさを振り撒き続けることができるのか?
……という話。
現在第1部をパソコンに打ち込んでブログにアップしています。
第2部の連載に入りました。更新速度は落ちると思います。

《第1部》
第1話 第2話
第3話 第4話
第5話 第6話
第7話 第8話
第9話 第10話
第11話 第12話
第13話 第14話
第15話 第16話
第17話 第18話
第19話 第20話
第21話 第22話

《第2部》
第23話 第24話
第25話 第26話
第27話 第28話
第29話
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無意識過剰 第1話

アルバイト募集
あなたもさわやかに働いてみませんか?
経験者、未経験者問いません。さわやかな人
仕事仲間の仲が良いさわやかな職場です
時給 850円~ (さわやかさにより昇給あり)
ご連絡は ~


……。何故このポスターは、ここまでさわやかをプッシュしているんだろう。ここまで全面に押し出されると、逆に胡散臭くなってくる。こんなに胡散臭いのは、三年前、「絶対においしいから!」と言って、豚骨ラーメンパフェ~ちょっとアレな森のキノコ添え~ を出してきた友人以来かもしれない。

とはいえ、ポスター右下の職場の写真はとてもさわやかだ。男子野球部から練習後の汗臭さを無くしたのと、女子吹奏楽部からネチネチした新人いじめを無くしたものを足して2で割れば、こんな雰囲気になると思う。要するに、さわやかで胡散臭い。


しかし、背に腹は替えられない。流石に、仕事を始めないと、明日からの生活にも困ってしまう。ポスターによれば住み込みでもOKらしい。これはとても助かる。時給も決して高くはないが、さわやかさで昇給できるのなら自信がある。

例の豚骨ラーメンパフェ(以下略)を完食した時も、友人に「さわやかにグロいものを食べ切ったね。」と言われた。 「絶対においしい」って言ってたよな? でも今グロいって自分で言っただろ!と思いながらも「友情のためさ☆」と答えておいた。我ながらさわやかだったと思う。


そんなわけで、(世間からの)冷たい風も吹き始めた秋、仕事を始めるため面接会場へと足を運ぶのでした。

9/6 K

無意識過剰 第2話

さわやかな草原の、白く清楚で、かなりでかい屋敷が、僕こと空井玲二(そらいれいじ)の新しい職場である。働く環境としては悪くない。僕は今までの下宿を引き払って、ここで住み込みで働くことになった。


面接はあっけないほど簡単に終わった。面接官は、30から40くらいの細身で長身の女の人だった。この家の女主人らしい。月か太陽かでいえば月、図書委員か体育委員かでいえば図書委員、アルトリコーダーで、全部の穴に余裕で指が届くほど長い指の人である。僕がそんなどうでもいいことを考えている間、女主人の方は僕をしっかり見ていたらしい。


「空井さん。私の顔に、なにか」

「あ、いえ、あなたは月みたいな方だなあと」

ぼんやり考えていたことをそのまま口に出してしまい、面接官は薄く笑った。何なんだ。
あとは簡単な応募理由と、好きな食べ物を聞かれたので、不景気のあおりをくって大卒後、就職できなかったから、そして好きな食べ物はミンティア、と答えておいた。


「わかりました。あなたは採用、ということで、明日から働いてもらいます。
 私は水津翡翠(みなつひすい)、この水津家の当主です。どうぞよろしく」

「はあ、よろしくお願いします」

「仕事は、家事の手伝い、……ですかね」


『ですかね』?僕は少し、ひっかかった。それ以外にも何かあるのだろうか。そして、なぜさわやかさが求められるのだろうか。

「あの、どうしてさわやかでなくてはいけないのですか」

翡翠さんは笑みを消し、真剣な顔になって、およそ真剣だとは思えないことを言い出した。


「さわやかさこそが、奴らに対抗する、唯一の手段なのです」



9/7 白石

無意識過剰 第3話

『奴ら』が何なのかはともかく、僕はこの屋敷で働き始めた。僕のためにと割り当てられた部屋は決して大きくはなかったが、今まで住んでいた1ルーム、風呂なし、共同トイレ、南向きの窓(新しくできたマンションにより機能していない)の下宿より快適なことは間違いなかった。


屋敷の案内と仕事の説明をしてくれたのは、この屋敷でメイド長をしている上尾愛(うえおあい)さんという英語で自己紹介したくない人だ。おばさんと呼ぶにはまだ若い気がするが、お姉さんと呼ぶにはいささか勇気がいる……それくらいの年の人だった。メイド長とはいうもののこの屋敷には彼女1人しかメイドはいない。大事なのは雰囲気だろうか。彼女はロングスカートのメイド服をひるがえしながら先を歩いていく。


「この部屋は書斎で、知ってる限り3回は床が抜けてる。掃除のとき腕がつかれるところ。
 時々、本の間からヘソクリが見つかる。」

同じような扉がいくつも並んでいるのだ。説明は聞いているが実は覚えていない。気付いたことだがこの屋敷には異常に鏡が多い。各部屋に1つずつ、廊下にも部屋と部屋の間に1つずつ。メイド長は歩くとき、その1つ1つを目の端で確認している。かなりのナルシストなのか?
鏡はどれも磨き上げられ、チリ1つない廊下を映している。ふと、1つの鏡を見ていると、廊下のすみに、毛玉――それも、着古したトレーナーから出るのを3年分集めたくらいの大きさのもの――を見つけた。掃除の手抜きかと振り向くが何もない。もう一度鏡に向き直る。いつも鏡を見るときのクセが出てしまい、無駄にさわやかに振り返る。
――メソポタミア文明ッ! ジュッ……
そんな風に聞こえる擬音語を残して毛玉が消えた。これは面白い。

そう思っていると、メイド長は、ある1つの扉の前に立ち止まった。


メソポタミア文明:Wikipedia
9/8 K

無意識過剰 第4話

「ここは、礼奈(れいな)お嬢様の部屋」

「お嬢様?」


一瞬、ドッキリイベントがあるかと期待したが、メイド長が言うには、お嬢様は今、行方不明らしい。無理だった。この屋敷内で消えたのは確実だというから、女主人の言う『奴ら』が関係しているに違いない。で、それでさわやかさが必要なんだろうか。論理がつながらないぞ、おい。
いなくなったお嬢様の代わりなのか、ピンクの装飾の部屋には、あちこちに写真が飾られている。やはり翡翠さんに似た細身の女の子で、年は10歳くらいだろうか。ちなみに僕は幼女萌えではない(例の豚骨ラーメンパフェ(略)の友人は幼女が大好きである。PTAの敵だ)。


「この部屋は私が掃除するから、あんたは入らないこと」

「はぁ、わかりました」

「じゃあ次の部屋。……」


結局、いくつ部屋があったのか覚えていないが、とりあえず入ってはいけない部屋――翡翠さんの部屋、礼奈お嬢様の部屋、兄の真(まこと)様の部屋と、それからなぜか、三階の一番つきあたりの部屋、の場所はなんとか覚えられた。
ちなみに、真様の通っている高校は、僕の妹と同じらしく、寮に入っているため長期休み以外では帰ってこない、のだという。ちらっと、『奴ら』という言葉が頭に浮かんだ。


その日の夕食は、ミンティアだった。
新入りの初日の食事はメイド長が用意してくれた、が、さすがにミンティア15箱分はきつい。お腹いっぱいになったのかそうでないのかよくわからないまま、その日は眠りについた。

9/9 白石

無意識過剰 第5話

南向きの窓からの朝日で目が覚めた。朝日とともに起きるのがこんなに気持ちよかったとは。部屋のすみでサルノコシカケが育ってもおかしくなかったかつての下宿では決して出来ない体験だ。

いそいそと着替えを済ませる。翡翠さんが注文したという特注の執事服が仕立てあがるまでは、普段着を着ていれば良いと言われた。“THE☆不愉快”Tシャツにするか“Let’s急降下爆撃”Tシャツにするか、散々悩んだが、間をとって“サルでもわかる量子電磁力学”Tシャツにした。ちなみに3枚セットで980円。お買い得だ。屋敷の中で多少浮いているがまぁいいだろう。


朝食はミンティアでない事を祈りながら食堂へと向かう。基本的にこの屋敷では朝食と夕食はそろって食べることになっているらしい。歓迎のつもりだったのかもしれないが、普通の食事を食べる2人に見守られながらのミンティアは物悲しさが漂っていた。

そういえば、この屋敷にはもう1人使用人がいるらしい。昨日は食材の買い出しで出掛けていて会えなかったが、僕より1歳だけ年上で男の人だというから、気は合うだろう。メイド長によれば見習いコックらしい。

食堂へ入ると4人分の朝食が用意されていた。パンのパッケージのように焼いてあるトースト、それに添えてある木苺のジャム、湯気を上げるコーンスープ、それぞれの好みに合わせて焼かれたベーコンエッグ。まさに完璧な朝食。その完璧な朝食を、
板 前 が 用 意 し て い た 。

どういう状況か理解できない。僕のTシャツは屋敷に合ってないと思ったが、これはそれ以上だ。Tシャツを豚骨ラーメン(略)とするなら、これはマシュマロとオムライスのおたふくソースがけベトナム風だ。どちらが変なのかというのはたぶんこの際問題ではない。
コック=板前か、コック≒板前か、コック⊃板前か、頭をフル回転させてみる。

9/11 K

無意識過剰 第6話

「ヨッス! あんたが空井くんか? 俺は八頭龍之介(やずりゅうのすけ)。
 よろしくな☆ 俺のことは、龍さんって呼んでくれ」

今日はミンティアじゃなくてゴメンな、と、板前……龍さんはさわやかに謝るのであった。むしろミンティアはもうやめてください、あれはお菓子です。

「じゃあ、よろしくお願いします」「ああ!」

がっちりと握手をする。でかい手だった。とりあえずテーブルにつきな、と、メイド長がめんどくさそうに言ってきたので、その言葉に従う。


食事の間、翡翠さんもメイド長もあまり喋らない。龍さんばかり、にぎやかに喋っている。

「どうだい空井くん? とりあえず半熟にしてみたんだが」

「あ、すごくおいしいです。ありがとうございます」

なぜ僕の好みぴったりの、半熟……それも、固まってるところ・7対固まってないところ・3の割合で作っているんだろう。顔を見ただけで目玉焼きの好みがわかるのだろうか、この板前は。もしそうならすごい能力だ。


「龍さんは、いつからここで働いてるんですか?」

「ああ、えーと……お嬢様がいなくなったすぐ後くらいだから、2年前だな。
 2年前からあのバイト募集やってんだけど、応募してきたのはお前が初めてだ」

「それは光栄です」

「まあ、空井くんはいかにもさわやかな名前してるしな」


龍さんとはその後、皿を片付けつついろんな話をした。実家はすし屋なのに、龍さんは洋食派らしい。朝食はパンでなければ動けないのだという。

「でも恰好は板前のままなんですね」

「やっぱこの服がおちつくっつーか……家に帰ったら、すし作るんでなあ」

「最初は驚きましたよ、その恰好……」


と、そのとき、カサカサと音がした。後ろを振り向くと、鏡がある。“サルでもわかる量子電磁力学”Tシャツを着た僕と、板前姿+茶髪のソフト角刈りの龍さんの姿……だけでなく、鏡の上の方に、安全ピンでできたクモのような何か。
上を見上げるときのクセで、ついウインクをする。

――カロリング・ルネサンスッ!
クモのような何かはそう言い残して消えた。断言はできないが、カロリング・ルネサンスの時代に、安全ピンはないと思う。多分。
「流石だな……」と、龍さんがつぶやいた。


カロリング・ルネサンス:Wikipedia
9/12 白石

無意識過剰 第7話

何が流石なのかよく分からないが、おそらくあの安全ピン的somethingを消したことなのだろう。あの毛玉や安全ピンが翡翠さんの言う奴らなのだろうか? 今のところ、自分に実害がおよんでないのでひとまずここは深くは考えない事にしようと決めた。

あまり関係はないが、龍さんの料理はとにかく素晴らしいと分かった。もう毎食これでも良いと思えるおいしさだが口に出すとこの家の人は本当に実行しそうなので言わないことにする。


「それでは皆さん、そろそろ仕事を始めてください。」

翡翠さんが優雅にそう告げ、朝食は終わりとなった。

「じゃあな空井くん、また昼食のときに!」

そう言って龍さんは厨房へと消えた。

「とっとと掃除を始めな」

ぶっきらぼうにメイド長が言う。姉御肌なのか、単に言葉遣いが荒いだけなのかいまいち判断に困る。が、掃除をしないことには何も始まらないので、ひとまず割り振られた場所を掃除していく。担当場所が、メイド長……僕が入ってはいけない部屋 僕……それ以外 なのはどうも腑に落ちない。

そんな事を考えつつ、それぞれの部屋で掃除機がけ、ぞうきん拭き、鏡磨きなどをこなしていく。今まで、メイド長は1人でこれらの掃除をこなしていたのかと思うと頭が下がる。
かなりの数の部屋がこの屋敷にはあるが、用途がわからない部屋も多い。応接室やダンスルームなどは一般家庭にはないとは思うが用途は分かる。大量のネコのビデオやDVD、雑誌や新聞のペット自慢コーナースクラップ帳(Vol.11)が置いてある部屋もネコ欲を考えれば当然だ。ハダカデバネズミ派の僕にはよく分からないが。ただ、『暇なとき椅子でクルクルする部屋』や『スイカの種飛ばし専用廊下』などといったものは全く理解不能だ。


ハダカデバネズミ:Wikipedia
9/20 K

無意識過剰 第8話

スイカの種飛ばし専用廊下にぞうきんをかける。この屋敷でこんな面白い行事が行われているとは正直、考えにくかった。翡翠さんはおちついた人だし、メイド長もあのぶっきらぼうな態度を見るに、スイカの種飛ばしが好きだとは思えない。むしろ、そうだったらすごいギャップだが、残念ながら僕はギャップ萌えではない。
頭を思い悩ませ、腰を痛ませつつ、長い廊下を駆け抜けていると、やはりカサカサ音がする。奴らか。

(――ああ、奴らのせいか)

この屋敷が妙に陰気なのも、子供たちがいないのも。
スイカの種飛ばしをしたがるのは子供たちに違いない。おそらく、礼奈お嬢様が『奴ら』に連れて行かれて(どこへ?)しまったから、真様は寮のある学校に行くことになったのだろう。また『奴ら』の犠牲に(生きているのか?)ならないための、翡翠さんの親心だ。

カサカサ。今度の奴は動きが素早い。
カサカサ、……見つけた。片方になった靴下だけでできた、蛇。

「――やあ!」

NHK教育テレビの、体操のお兄さんばりの笑顔で声をかける。蛇はびっくりしたように跳ね上がって、消えた。今回の断末魔は、「第三身分とは何か……」に聞こえた。いきなり近代だ。
――ともかく僕は、またこの廊下でスイカの種飛ばしが行われるためには、奴らを退治しなくてはならないということを知った。別に、スイカの種飛ばしが見たいわけではないが、礼奈お嬢様と真様が帰ってこないことには、この屋敷の陰気さは消えないだろう。

しかし、『奴ら』とはいったい何なのか? 不要物が塊になったような存在、消えるときに世界史で習ったような言葉を叫ぶ、おかしな奴らだ。
そんなことをぼうっと考えつつ立っていると、通りがかったメイド長に「何さぼってるの」と言われ、あわてて掃除を再開する。

(ともかく、『奴ら』はさわやかさで退治できるのか)

それなら頑張ろうじゃないか。そろそろ、腰がずいぶん痛い。
と、そのとき、いきなり電話が鳴り響いた。――出るべきか?
少し迷いつつ、僕は電話のもとへと向かった……。


フランス革命:Wikipedia
9/20 白石

無意識過剰 第9話

屋敷の内装によく合ったアンティーク調の電話(こう見えても、FAXとGPS機能付き。固定電話にGPSをつける必要性はどこにあるのだろう)がけたたましくベルを鳴らしている。


ガチャリ

「はい、もしもし」

「水津さんのお宅でしょうか?」

「はい、こちら水津家です」

「あ、すいません、掛け間違いました」

ガチャリ……ツーツーツー……

明らかに間違い電話ではない。あやしい……。というわけで、電話の前の廊下にぞうきんをかけながら、再び電話を待つ。
電話から一番遠い、廊下の端にぞうきんをかけはじめた所で、またベルが鳴った。もはや一種の嫌がらせだ。ここはひとつ皮肉でも言ってやろうと、お客様相談テレフォンセンターも裸足で逃げ出すような、とびっきりのさわやかな声で受話器を取った。

「はい、こちら水津家です。どちら様でしょうか?」

「ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世……」

いやさすがにそれは無い。ということは、これは奴らの断末魔だ。それにしても、まさか奴らが喋るとは。会話が妙にうまくつながっていたのもなんともいえない。
そんなことを考えていると、雑音が多かったのが急にクリアな音になり、受話器から音が聞こえてきた。

「お、やっとつながった。メイドの愛ちゃん、お母様いる?
 ってか、愛ちゃんって呼んだらいつも怒んのに、なんで喋ってねーの?」

もしかして、この電話の主は真さんだったのだろうか?それにしても、あのメイド長を愛ちゃんと呼ぶとは……。

「あ、僕はメイド長じゃないです。新しくこの屋敷に勤めることになった空井です。」


さて、電話の向こうで真さんはどんな顔をしているのだろう。

9/21 K
プロフィール

白石アオイ

Author:白石アオイ

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