FC2ブログ

フユカイフォレスト

あらゆる不愉快な空間に通じているというフユカイフォレスト、
そこに住む謎の二人。と、その他いろんな不愉快な生物たち。

fuyukai

左→イフィ
手足がたくさん生えた白くて丸い謎の何か。
触った感触はもったりして不愉快。サイズは様々。

中央→サファイアさん
17歳。なんかいろいろ暇してる人。
森に迷い込んできたおかしな人間を森の外へ案内するのが日課。
ごく小さいころからフユカイフォレストに住んでいるため、森の生物たちの方が普通だと思っている。常識はあまりない。
鷹揚で多少のことは気にしない性格。

右→ノイくん(ノイズ・ノア)
12歳。常に手に持った包丁がトレードマーク。
森に迷い込んできたが、帰る場所がないのでそのまま居ついてしまった。
サファイアの弟的存在。思春期。
身長が低いことを気にしている。
スポンサーサイト



よその子たち

うちの子ご自由にお描き下さい同盟で描かせていただいたもの。

じくさん宅のゼロさん。
zero


紅葉さん宅の和歌ちゃん。
waka

モツさん宅のイルスちゃん。
ilus

Jimmyさん宅のサミィくん。
sammy

無意識過剰 第22話

鏡の中からの音は気になったが、そういうものなのだろうと思うことにした。中で何か動いていたが気にしない。
お泊まり会というわけではなかったが皆のテンションはそれに近いものがあった。トランプをしたり、スイカの種飛ばし専用廊下で種をとばしたりと、何が目的で来たのかすら忘れそうなほどだった。

途中からは、夜食を持ってきた板前さん(八頭さんというらしい)や寝るよう言いに来たメイド長、様子を見に来た真のお母さんまでも巻き込んだとてもにぎやかなものとなった。
特に使用人3人によるトランプ勝負は見ごたえがあった。ただのババ抜きのはずなのに、あたりのさわやかさが違う。時折、鏡の中から叫び声が聞こえたが、日本史選択の俺としては、異を唱えたかった。『防人(ぼうじん)』ではなく『防人(さきもり)』だし、『シャビエル』でなく『ザビエル』だ。

夜も遅くなり、1人、1人と脱落者が出ていく。俺も最後まで頑張りはしたが、ついに寝てしまった。
ぷつりととぎれた意識の中に声が響く。辺りは、甘ったるく胸やけがしそうな匂いに満ちている。

――1人戻ッテキタダケデ 喜ブナヨ
サワヤカサ ダケガ チカラ デハ ナイト 思イ知ルガイイ
ヨリ 強大ナ 敵ガ イルノダ!! フハハハハッ……!!

飛び起きた後も、まだ耳に残る声だった。夢とは思えないほどの。

より強大な敵とは! 新たなチカラとは!!
『シャビエル』を『ザビエル』に戻すべく、俺たちの冒険はまだまだ終わらない!!
第2部にご期待ください

――第1部 完――
10/7 K

無意識過剰 第21話

玲二さんは屋敷に入るなり、メイド長からお叱りをくらっていた。無断欠勤だから当然だ。しかし、真の姿を見るとメイド長は顔色を変え、真の母親を呼んできた。

「――真!? どうして戻ってきたの」

「おちつけよお母様、いいニュースがあるんだ。礼奈が帰ってくるかもしれないんだよ!」

「礼奈が? ……いったいどういうこと?」

当惑したような期待したような顔をする母親とメイド長に、玲二さんはこの3日間の無断欠勤とロココ調とフユカイな森とネギについて、簡潔に説明した(全部分かってもらえたかどうかは謎)。ネギはとりあえず、厨房にいた、がたいのいい板前に渡しておいた。こちらも、なかなかのさわやかさだ。

「つまり、ある程度鏡に出たり入ったりすることは可能だということです。」

玲二さんを鏡の中から召還したみたいに、真の妹も帰ってくるかもしれない。少なくとも、試してみる価値はある。――そう玲二さんが伝えると、母親とメイド長の表情が少し晴れた。まぁ、多少方法が突飛ではあるが……。

「……分かりました。空井さん、これをどうぞ」
「え? これは……」


「けさ仕立て上がりましたの。これからはこの服で働いてください」

手渡された包みから取り出されたのは、見事な縫製で、深いえんじ色の執事服だった。これは布部として羨ましいぞ……。聖子もそれを驚きの目で見ていたが、思い出したように言い出す。

「たしか、時間の流れがザンネンだって言ったわよね、お兄ちゃん」

「ああ。僕は数時間だと思ったけど、帰ってきたら3日後だったよ」

「それあら、鏡に入るんだったら冬休みまで待った方がいいような気がするけど。学校が大騒ぎになるわよ」

なるほど、たしかにその通りだ。とりあえず話はこれでまとまった。寮に電話を入れて真の家に泊まることを伝え、板前の作ったすばらしい味のネギ焼きをいただいた。
……鏡の中で、ときおりカサカサいう音が聞こえてくる。

10/6 白石

無意識過剰 第20話

「残念ながら、見かけなかったよ。」

玲二さんの言葉に、真は肩を落とした。

「でも、あの空間にいることは確かだと思うんだ。妹さんがどこで消えたか分かるかい? 僕もなるべく協力するよ」

真の肩に手を置き、力強く断言した玲二さんはとても頼もしく、そして、さわやかに見えた。


玲二さんが屋敷に戻らなければならないと言ったので、俺たちも真の妹を探すと理由をつけ、同行する。真の家は高校からバスで30分程度。住宅街からは外れた場所にあるため、バスの中の人はまばらだった。あの衣装のままバスに乗るのはあまりにも公共のマナーに反しているので、もちろん制服だ。衣装は布部に置いてきたが、ネギはナマモノだ。1人4本×3人分+予備1本(これは、八百屋のオジサンのサービスだ。)計13本のネギはビニール袋に入って足元に置かれている。ネギの匂いが充満する車内で、これからどうするか、会議を始める。

バスを降りるまでに、少なくとも、このネギは今晩の夕食にすることだけが決まった。なんと不毛な議論だろう。真の気持ちも考えてほしいと思ったが、一番熱く議論に参加していたのは真だった。ネギ焼きについてあんなにも熱く語る高校生男子を俺ははじめて見た。


話には聞いていたものの、実際に真の家を見た時は驚いた。マンガの中だけだと思っていた屋敷が目の前に広がっている。メイドやコックまでいるというのだから驚きだ。

「あの、僕も一応この屋敷の執事だよ。バイトだけど。」

さわやかさをふりまきながら玲二さんが主張するが、今は13本のネギを持つことで精一杯なので答えられない。どうせなら、このネギを持ってほしい。

10/5 K

無意識過剰 第19話

さっきの人は礼奈お嬢様なのかとも思ったが、写真を思い出してすぐに違うと分かった。僕みたいに鏡に引きずり込まれたのかもしれないし、もしかしたら、最初からここにいるのかもしれない。
サファイア、と言っていた。さわやかな名前だ。

(ん……? この匂いは)

そんなことを考えている僕の鼻腔を、あまりさわやかでない香りがくすぐってくる。このこってりした(略)空間に1つだけ欠けていた何かが、向こうから漂ってくる。
――この匂いはネギの香りだ。
こう見えても(?)嗅覚には自信がある。下宿の外から、隣の住人がネギを切っているのがすぐに分かる程度だ。だから、今回も間違いはない。ネギの本数は1本ではないようだ。

「あっちかな? 行ってみよう」

歩を進める。床はややもすると沈み込んでしまいそうだった。空気が手でつかめるくらいに密度が濃く、ちぎっては投げ、ちぎっては投げて進んでいくたびに、くたびれかけたネギの匂いがいっそう強くなっていく。霧の中のようにぼやけた視界で、僕は人影をとらえた。頭にネギをくくりつけた人が3人。その中の1人は、僕のしっかり者の妹、聖子のように見えた。
その人影に向かって、声の限り、叫ぶ――

「聖子ー! 僕だ、玲二兄ちゃんだよ」

その瞬間、霧が晴れた。僕の思った通り、その人影は聖子だった。頭にネギ、白装束という変ないでたちだったが、ようやく見知った顔を見られて、ずいぶんほっとした。思わず頬がゆるむ。

「やっぱり聖子だ!そんな格好して、何やってるんだ?」

――とまあ、こういうわけなのさ。
そう言って、玲二さんは話を閉じた。波乱万丈の大冒険だ……。

「それで……空井サン、妹を見なかったか?」

真が珍しくおちゃらけた様子なしで聞く。どうやら、彼は彼なりに妹のことを心配していたらしい。

10/4 白石

無意識過剰 第18話

「はい?」そう言って振り返ったすらりとした長髪の女性は、手に白くて丸い何かを抱いていた。

「あの~、これどうにかできますか?」

駆け寄ってきたその人につかまれた右手を見せると、抱いていた白いのを僕の頭の上に乗っけられた。変な感触だ……。そうしている間に右手ははずされた。だが、すぐさま左手をつかまれた。そして、左手をはずすと右手をつかまれる。さらに、白いアイツが頭の上からもったりと落ちてきて、顔にかぶさる。これを5、6回繰り返したところで、はずされた手をポケットに入れればよいことに気付いた。ネバネバするが気にしない。

「あの……ここは……?」

「ここは、フユカイフォレスト」

「フユカイ!」「フユカイ!」「フユカイ!」

女性が答えると周りの何かが復唱する。さらにその声が木々に反響しているように聞こえるが、実際は謎の何かが木に鈴なりになって叫んでいるらしかった。

「ここは時間の流れがザンネンだから、早く捜し物をした方がいいと思うよ。行くならたぶんあっちね。」

指さした方を向いても森が広がっているだけだった。振り返ってお礼と、名前を聞こうとすると、ザンネンな生き物達の流れにもみくちゃにされて遠ざかっていく。

「ありがとうございますっ! あ、あなたのお名前はっ」

ザンネンの中に沈みそうになりながらも懸命に叫ぶ。遠ざかっていく中で、サファイアという名前がかすかに聞こえたような気がした。


気付けば僕はそこにいた。ツギハギでもなく、フユカイな森でもない、どこか懐かしいような、それでいてサッパリとした、そう、豚(略)のような不思議な空間。
とても静かな中で、僕の息づかいだけがやたらと大きく響いた。

10/4 K

無意識過剰 第17話

とりあえずこの鏡にもう用はないので寮に戻り、白装束を着替えた。
ロビーのソファに座り、いったい何があったのか、聖子の兄、玲二さんは語りはじめた。

「まず、真さんに彫刻刀を取ってきてって言われたことがはじまりなんだよね……」

さわやかに苦笑いしつつ、「真さんがメイド長に会いたくないって言わなければ……」とひとりごちた。俺は布を届けにきた真の家のメイド長に会ったことがあるが、急いでいたらしく3階から飛び降りて駐輪場の屋根を盛大に踏み抜いていった。真は職員室に呼び出された。

「……とまあ、そんなわけでその変な空間を抜けて、森に出たわけなんだ」

しまった、聞き逃した。ロココ調の千手観音からいったいどうやって逃げ出したんだろうか。……ここからはちゃんと聞こう。


僕はしばらくその切り株の上に座っていた。今日はもうだいぶん走って疲れているし、何より状況がよく分からない。こちらの世界に来たと言うことは、礼奈お嬢様と同じ立場、つまり向こうの世界では行方不明になってしまったということだ。すいません翡翠さん、まだ2日目なのに。
不安がぐるぐると渦巻く僕の周りに、いつのまにか妙な生き物が集まってきていた。

「……うわ、なんだこいつら?」

白くてまん丸で、ぎょろぎょろ丸い目に手足のたくさん生えた謎の何かや、長身で口が大きく裂けた亜人のような謎の何か、もさもさ毛が生えた謎の何かに沼から生成する謎の何か。不愉快なことに、悩む僕を取り囲んで勝手にお茶会を開いていた。

「ヨウコソ!」「ヨウコソ!」

なんなんだこいつらは? 立ち上がろうとしたが、もちもちねばねばした謎の何かに右手をつかまれている。もう泣きそうだ。
そこへ、森の木々の間にドレスをまとった人影が見えた。僕は一も二もなく、その人に大声で呼びかけた。

「すみませーん! そこの人ー!!」

10/3 白石

無意識過剰 第16話

鏡から出てきた青年は俺が見たとおり、”サルでも分かる量子電磁力学”Tシャツを着た聖子の兄ちゃんだった。

「いや、実はさ、彫刻刀を届けに来たのはいいんだけど、肝心の彫刻刀を忘れちゃったんだ。あの、水津真さんって、どこのクラスか分かる?」

最初に言うべきことはそれなのか。聖子はやれやれといった顔で兄を眺め、真は自分の名前が出たことに驚いたものの、すぐに何か納得したようだった。結局、何一つ分かっていないのは俺だけみたいだった。

「とりあえず、お兄ちゃん、鏡から出ようよ。」

至って冷静に聖子は言った。鏡から出かかった青年と、それを取り囲むネギポン3人。とても前衛的だ。もしこれが心象風景なら、俺は間違いなく卒倒する。が、一応は現実らしい。いっそのこと夢であってほしいが……。
俺が意識を遠いどこかへ飛ばしている間に、話は進んでいたらしかった。

「こっちがお探しの真で、そこのが実。」

テキパキと聖子は紹介を済ませる。何があっても動じないのは、兄ちゃんが不測の事態をしょっちゅう運んでくるからかもしれない。

「あ、真さんごめんなさい。ちょっと鏡の中で迷子になったもんで。」

その兄はといえば、さわやかに笑いながら頭をかいている。

「空井サンって聖子の兄ちゃんだったんだ。同じ名字だとは思ったけど、偶然ってスゲーな。」

驚くべき焦点はそこではない。なごやかな雰囲気のせいで忘れかけていたが、人が鏡から出てきたのだ。俺はペタペタと鏡をさわってみるが、何の変哲もない鏡に思える。

10/3 K

無意識過剰 第15話

と、その時、足をもつれさせてしまい、僕はアクロバティックにこけた。もんどり打って数回前転をし、気づけばすぐ前は鏡。その勢いのまま、千手観音の腕がたくさん生えたロココ調の鏡に頭からつっこんでしまった。

「ここは……森だ。」

目の前に見える風景を確かめるように、そう呟く。森だ。じめじめとして、多少毒々しい色をした沼から泡がぽこぽことたちのぼっている暗い森だが、さっきの空間と比べればまだ秩序がある。僕は朽ちかけた切り株に座り込んで、ようやく一息ついた。変な気配がする……。



「俺なー、妹がいたんだよ」

かつて真は、そう言った。学芸会のダンスの練習だと言って、白い着物に、頭に4本のネギをしばりつけ、ポンポンを持った姿を見たのが最後だという。妹を思い出そうとしても、その姿しか浮かばないらしい(っていうか、どんなダンスだったんだ)。
今は放課後、夕日が赤く差し込んで、その格好をした俺たち3人をまがまがしく照らしている。あれから3日間、俺たちは練習を重ねた。

「どう見ても、怪しい宗教団体ね……」

「言うな。……行くぞ、ミュージック・スタート!」

手動でラジカセの電源を入れる。ハワイアンフラの、さわやかな情景を思い起こさせる音楽が流れ、俺たちは踊る。
――カサカサと音がする。こんなノイズは入っていなかったはずだが?

「何か起こるかもしれないな、気をつけろよ」

草をかき分ける音のようにも聞こえるその音は、だんだん近づいてくる。
赤い光が鏡を照らし、その時、真剣な顔で踊っている真の、鏡に映った姿が笑い――

「やっぱり聖子だ! そんな格好して、何やってるんだ?」

真はさわやかな好青年に姿を変え、そう言った。えらい目にあったよ、と言いながら、鏡の外に出てくる。

「いや、実はさ……」


9/30 白石

無意識過剰 第14話

――その頃 鏡の中

これは困ったことになったぞ……。真さんの部屋の中はたしかに鏡の中とおなじだった。が、扉の外はそうでもないらしい。本来は屋敷の廊下であったはずの場所は、パッチワークのように、様々な空間がつぎはぎになった妙な場所となっていた。
本当に共通点が全くないように見える和洋折衷(+中華、琉球、東南アジアetc...)なつぎはぎのパーツだが、どのパーツにも大なり小なり鏡が置いてあった。

そんな空間をフラフラと歩いているうちに、自分がどこにいるのかよく分からなくなった。要するに迷子になってしまったわけだ。見た事がある物がないかと、注意深く見回しながら来た道を探す。
どうでもいい事だが、2つの空間の間はそれらの空間が融合して、とてもファッショナブルな事態になっている。物が雑多に置いてある物置らしき場所と和風建築の境は、クリスマスツリーと盆栽の合わさったような盆栽ツリーが誕生していた。同じ針葉樹だからといっても、そのまとめ方はあまりにも大雑把ではなかろうか。

そんな事を考えながらそのツリーの横を通り抜けようとすると、突然腕にチクリと痛みが走った。見てみると、松の葉が地面に落ちていた。十分な距離はあったはずだ、刺さるなんて事は……とおもった矢先、ツリーが針を飛ばしてきた。
慌てて距離を取ろうと2、3歩後ずさると、なんとツリーに足が生え、走ってきた。なかなかの美脚だ。どうやら自由の女神の足らしい。物置の持ち主は、なんて迷惑な物を置いていったんだ。(もちろん、和風庭園の真ん中に自由の女神像があった可能性も0ではないが)
あちこちに針を刺されてはたまらない。僕はその場から駆けだした。足が軽い。もしかしたら、さっき刺された時、良いツボを押されたのかもしれない。

流れていく景色の中、鏡の外に、制服の三人組が見えた気がした。

9/30 K

無意識過剰 第13話

「とりあえず実、踊ってみろ」

――と、真が言うのだが、文化系男子の俺はタップダンスもバク転もできない。しかたなく、小学校の時習った太極拳を鏡に向かってやってみた。
しかし、太極拳(簡化二十四式)というものは左へ行ったり右へ行ったり、ちっとも鏡に映りやしない。近くを通りがかる人はいるけれど、けげんな顔で俺を見るだけだった。

「なんか地味ねぇ。あんまり何も起こらなさそう……」

「そもそも鏡に映ってないしな」

それならお前らが踊れよ、と思うが、太極拳は心を落ち着ける動きである。太極とは宇宙、そんな小さいことはどうでもいい。
最後の『収勢』という技を終えると、自然と元の位置に戻ることになる。もはや二人は俺の演技を見ていなかったが、ずっと曲げたままにしていたひざを元に戻したとき、目の前の鏡に、かなりファッショナブル(?)なTシャツを着た人が全力で走っていくのが見えた。

「なあ、今の人のTシャツ、なかなかセンス良かったな」

「え? 何言ってるんだ? 今の人、白衣着てたっしょ」

「……さっきの人、イケメンだって評判の地学の実習生よ?」

「え、……いや、たしかに……」

たしかに、”サルでも分かる量子電磁力学”と書かれたTシャツだった。
俺がそう言うと、聖子は少し眉を寄せる。俺の言うことが信じられない様子だ。

「それ本当? うちのお兄ちゃんも同じTシャツ持ってたけど」

「なかなか動体視力いいなー、実」

「動体視力はどうでもいいんだよ。それに、さっきの人、聖子の兄ちゃんに見えたぞ?  文化祭とかで見たことある」

「……ますますありえない」

聖子はおもしろくもなさそうに言った。しかし、ずいぶんとおかしなことであった。やはりこの鏡には何かある。

「じゃあ、次はもっと奇抜なことやってみようぜ」

たとえば変な服を着て3人で踊る、とか。そう真は言う。
やめてくれ、と思った。


9/28 白石

無意識過剰 第12話

「あ、その話なら知ってるわ。3年生の先輩が理科室の鏡の所でタップダンスしてたら、偶然通りかかった先生が偶然にもコケて、しかも偶然にも次の授業で使うはずの酢酸オルセイン液をぶちまけて、偶然にも前を歩いていた実習生が被害をこうむって、あだ名が某無免許医師になった。って話でしょ?」

「ちょっと待った、今の話、タップダンス関係ないっしょ!」

……しまった。ナレーターに徹していたのについいつものクセでツッコミが。どうにも、ツッコミやら、個人的感想を入れてしまう。どうやら自分はナレーターには向いていないらしい。
そんな自分は清高2年布部、丘山実(おかやまみのる)。ナレーターはふつう、この自己紹介は誰に向かって話しているかなんてメタ思考的な事は考えない。とりあえずのところは、話を元に戻そう。

「俺もその話は聞いてないな。変な実習生がいる、ってのは聞いてたけどよ。ってか、よくそんな話知ってるな。」

この話が初耳なのは真も同じらしかった。

「俺が聞いた話は……」

誠の話は常々効果音が多くて分かりにくいので要約すると、理科室の鏡の前で1年生がバク転をしていたら、偶然チャイムが鳴り、偶然近くの廊下を歩いていた生徒が、偶然持っていたカレーパン(本場インド風)を偶然飛んでいたトンビに取られたらしい。他にも色々と理科室前の鏡に向かって何かをすると、ザンネンなことが起きるらしい。
どうにも、ザンネンな出来事をムリヤリ鏡のせいにしているように思えて仕方がない。

「よし、布部で調査しようぜ」

出た。真の常套句「布部で~しようぜ」。「~」の部分にはたいてい布部とは全く関係ない何かが当てはまる。
毎回それなりに楽しいし、まぁ今回もつきあうことにしよう。

酢酸オルセイン:Wikipedia
9/28 K

無意識過剰 第11話

ハダカデバネズミのぬいぐるみ(不細工)は、小さな目をぎょろぎょろさせて、僕を見てくる。

「こっちへ来てしもうたんなら、まぁ頑張りんさい。 出られるかどうかは分からんけどのう」

「えええと、ぐ、具体的にはどうすれば」

「こっちは不愉快で残念な世界じゃ。あんたのそのTシャツ、こっちの世界に気に入られてしもうたらしい」

このTシャツ……”サルでも分かる量子電磁力学”Tシャツが、まさかこんなところでアダになるとは。どうにかしなくては。
とりあえず、部屋の外へ出てみよう。何かあるかもしれない……。



一方、ここは清大路高校……

「ちくしょー、結局、彫刻刀届けてもらえなかったなー」

そう言いつつ、今日も工芸教室の備品の彫刻刀で版画を彫るのは、布部(ぬのぶ)の同級生、水津真である。布部というのは、布を使って文化的な活動をする部活、つまり手芸部である。この放送係がよく噛むネーミングをしたのが、他でもない真だった。ノリがよく、おちゃらけていて女子ともしょっちゅう話している。

「うおっ! 聖ちゃんの、クオリティー高っ! すげぇー」

「真くんもさっさと片づけちゃえばいいのに」

「えー、だって、この彫刻刀古くて錆びてるんだもん……」

今、真が話しかけているのは、同じく布部の、空井聖子(そらいせいこ)であった。ストレートの黒髪が涼やかな美人である。羨ましい。
ちなみに聖子はとっくの昔に課題を終えていて、今は観音像を彫っていた。彼女の才能は布だけに発揮されるのではないようだ。

……チャイムが鳴る。今日も真の版画は進んでいない。

「そういや知ってるか? 最近、理科室前の鏡で……」


9/26 白石

無意識過剰 第10話

「マジで? ……ってことは、あんた、あの貼り紙見て応募してきたのか?
 珍しい人もいたもんだなー」

「はい。翡翠さ……じゃない、ご主人様は今外出していますが、伝言を預かりましょうか?」

珍しい人、のくだりは無視して、話を聞くと、どうやら屋敷内に彫刻刀を置いたままにしてしまったらしく、版画の授業でいつも困っているから寮に届けてほしい、とのことだった。そんなことならメイド長の仕事ではないだろうか。

「分かりました。メイド長に伝え「いやいやいや! それはマズイよ! 俺の部屋入ってもいいから、空井サン、彫刻刀探して届けてくれる?」

? おちゃらけていた真さんが急にあわてだした……何かある。
まあ、あまり深くは追求しないことにして、とりあえず彫刻刀の大まかな場所と、清大路(きよおおじ)高校の寮の部屋番号を教えてもらい、電話を切った。



「彫刻刀、彫刻刀……っと、どこにあるんだろう……」

真さんの部屋は、普段使っていないにもかかわらずかなりゴチャゴチャと物がいっぱいあった。もちろん掃除はされているが、この雑然とした雰囲気を保ちながら片づけるのは大変に違いない。

「たしか勉強机の中にあるって言ってたけど……」

そもそも勉強机が見あたらない。画材やマネキン、布、なんだかよくわからない動物のぬいぐるみなど、一般的な高校生男子の部屋という感じではない。それらをかきわけ、掘っていくと、ようやく小学生用の勉強机にいきあたった。

と、そのとき、廊下を歩く音が聞こえてきた。――これはどうするべきか、真さんが入ってもいいと言ったんだから別にかまわないのか、しかし見つかればメイド長が、それは私の仕事だと言って届けに行くだろう。どこかに、隠れる場所はないか?

――扉が開き、僕は壁にぴったりはりついた。すると、背中に妙な気配を感じて振り向く。
僕は鏡の中にいた。メイド長が、さっき僕の散らかした所を見て、首を傾げているのが見える。こちらへ来る。見つかる!
しかし、メイド長には僕が見えないようだ。鏡を拭いて、部屋にはたきをかけ、出ていった。

9/21 白石


※編集ミスにより第10話に2回分の話が入ることになってしまいましたが気にせずお楽しみください


鏡の中と外を交互に見る。物の配置も何も、鏡映しになっているだけで、鏡の外と何も変わりはないように思える。強いて言うなら、文字が読みにくいことと、はさみが左利き用になってしまったことぐらいだ。左利きの僕にとって、これは非常にありがたい。

とはいえ、彫刻刀も届けなければならないし、こんな怪しげな空間に長居はしたくない。鏡に手を伸ばしてみるが、そこには硬いガラスがあるだけだ。入ってきたときと同じように背中からつっこんでみるが、これも鏡に後頭部を強打しただけに終わった。これは困ったことになったぞ。鏡の中に入ったことがある人が知り合いにでもいればいいのだが、あいにくそんな知人はいない。むしろいてたまるか。例の豚骨(略)はロリコンだったこともあり、アリスを愛読してその話をしていたと思うが、たしか似たような話があった気がする。が、やはり童話。参考にはならないだろう。
さてどうしたものだろうともう一度部屋を見渡したとき、先ほどまでの――何の変わりもないという考えは誤りだったと痛感した。
例のよく分からないぬいぐるみ(よく見てみると、それはハダカデバネズミのぬいぐるみだった)が動いて話しかけてきた。

「いやいやどうも。こげぇなトコに来ちゃるなんて、いなげな人もおるもんじゃねぇ。」

ハダカデバネズミに変な人呼ばわりされた……。
ショックのあまり、返事する言葉が見つからない。よりによって、ハダカデバネズミに、しかも方言丸出しの……
やっと僕が絞り出せたのは、「はぁ……」という言葉だけだった。

9/26 K

無意識過剰 第9話

屋敷の内装によく合ったアンティーク調の電話(こう見えても、FAXとGPS機能付き。固定電話にGPSをつける必要性はどこにあるのだろう)がけたたましくベルを鳴らしている。


ガチャリ

「はい、もしもし」

「水津さんのお宅でしょうか?」

「はい、こちら水津家です」

「あ、すいません、掛け間違いました」

ガチャリ……ツーツーツー……

明らかに間違い電話ではない。あやしい……。というわけで、電話の前の廊下にぞうきんをかけながら、再び電話を待つ。
電話から一番遠い、廊下の端にぞうきんをかけはじめた所で、またベルが鳴った。もはや一種の嫌がらせだ。ここはひとつ皮肉でも言ってやろうと、お客様相談テレフォンセンターも裸足で逃げ出すような、とびっきりのさわやかな声で受話器を取った。

「はい、こちら水津家です。どちら様でしょうか?」

「ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世……」

いやさすがにそれは無い。ということは、これは奴らの断末魔だ。それにしても、まさか奴らが喋るとは。会話が妙にうまくつながっていたのもなんともいえない。
そんなことを考えていると、雑音が多かったのが急にクリアな音になり、受話器から音が聞こえてきた。

「お、やっとつながった。メイドの愛ちゃん、お母様いる?
 ってか、愛ちゃんって呼んだらいつも怒んのに、なんで喋ってねーの?」

もしかして、この電話の主は真さんだったのだろうか?それにしても、あのメイド長を愛ちゃんと呼ぶとは……。

「あ、僕はメイド長じゃないです。新しくこの屋敷に勤めることになった空井です。」


さて、電話の向こうで真さんはどんな顔をしているのだろう。

9/21 K

無意識過剰 第8話

スイカの種飛ばし専用廊下にぞうきんをかける。この屋敷でこんな面白い行事が行われているとは正直、考えにくかった。翡翠さんはおちついた人だし、メイド長もあのぶっきらぼうな態度を見るに、スイカの種飛ばしが好きだとは思えない。むしろ、そうだったらすごいギャップだが、残念ながら僕はギャップ萌えではない。
頭を思い悩ませ、腰を痛ませつつ、長い廊下を駆け抜けていると、やはりカサカサ音がする。奴らか。

(――ああ、奴らのせいか)

この屋敷が妙に陰気なのも、子供たちがいないのも。
スイカの種飛ばしをしたがるのは子供たちに違いない。おそらく、礼奈お嬢様が『奴ら』に連れて行かれて(どこへ?)しまったから、真様は寮のある学校に行くことになったのだろう。また『奴ら』の犠牲に(生きているのか?)ならないための、翡翠さんの親心だ。

カサカサ。今度の奴は動きが素早い。
カサカサ、……見つけた。片方になった靴下だけでできた、蛇。

「――やあ!」

NHK教育テレビの、体操のお兄さんばりの笑顔で声をかける。蛇はびっくりしたように跳ね上がって、消えた。今回の断末魔は、「第三身分とは何か……」に聞こえた。いきなり近代だ。
――ともかく僕は、またこの廊下でスイカの種飛ばしが行われるためには、奴らを退治しなくてはならないということを知った。別に、スイカの種飛ばしが見たいわけではないが、礼奈お嬢様と真様が帰ってこないことには、この屋敷の陰気さは消えないだろう。

しかし、『奴ら』とはいったい何なのか? 不要物が塊になったような存在、消えるときに世界史で習ったような言葉を叫ぶ、おかしな奴らだ。
そんなことをぼうっと考えつつ立っていると、通りがかったメイド長に「何さぼってるの」と言われ、あわてて掃除を再開する。

(ともかく、『奴ら』はさわやかさで退治できるのか)

それなら頑張ろうじゃないか。そろそろ、腰がずいぶん痛い。
と、そのとき、いきなり電話が鳴り響いた。――出るべきか?
少し迷いつつ、僕は電話のもとへと向かった……。


フランス革命:Wikipedia
9/20 白石

無意識過剰 第7話

何が流石なのかよく分からないが、おそらくあの安全ピン的somethingを消したことなのだろう。あの毛玉や安全ピンが翡翠さんの言う奴らなのだろうか? 今のところ、自分に実害がおよんでないのでひとまずここは深くは考えない事にしようと決めた。

あまり関係はないが、龍さんの料理はとにかく素晴らしいと分かった。もう毎食これでも良いと思えるおいしさだが口に出すとこの家の人は本当に実行しそうなので言わないことにする。


「それでは皆さん、そろそろ仕事を始めてください。」

翡翠さんが優雅にそう告げ、朝食は終わりとなった。

「じゃあな空井くん、また昼食のときに!」

そう言って龍さんは厨房へと消えた。

「とっとと掃除を始めな」

ぶっきらぼうにメイド長が言う。姉御肌なのか、単に言葉遣いが荒いだけなのかいまいち判断に困る。が、掃除をしないことには何も始まらないので、ひとまず割り振られた場所を掃除していく。担当場所が、メイド長……僕が入ってはいけない部屋 僕……それ以外 なのはどうも腑に落ちない。

そんな事を考えつつ、それぞれの部屋で掃除機がけ、ぞうきん拭き、鏡磨きなどをこなしていく。今まで、メイド長は1人でこれらの掃除をこなしていたのかと思うと頭が下がる。
かなりの数の部屋がこの屋敷にはあるが、用途がわからない部屋も多い。応接室やダンスルームなどは一般家庭にはないとは思うが用途は分かる。大量のネコのビデオやDVD、雑誌や新聞のペット自慢コーナースクラップ帳(Vol.11)が置いてある部屋もネコ欲を考えれば当然だ。ハダカデバネズミ派の僕にはよく分からないが。ただ、『暇なとき椅子でクルクルする部屋』や『スイカの種飛ばし専用廊下』などといったものは全く理解不能だ。


ハダカデバネズミ:Wikipedia
9/20 K

無意識過剰 第6話

「ヨッス! あんたが空井くんか? 俺は八頭龍之介(やずりゅうのすけ)。
 よろしくな☆ 俺のことは、龍さんって呼んでくれ」

今日はミンティアじゃなくてゴメンな、と、板前……龍さんはさわやかに謝るのであった。むしろミンティアはもうやめてください、あれはお菓子です。

「じゃあ、よろしくお願いします」「ああ!」

がっちりと握手をする。でかい手だった。とりあえずテーブルにつきな、と、メイド長がめんどくさそうに言ってきたので、その言葉に従う。


食事の間、翡翠さんもメイド長もあまり喋らない。龍さんばかり、にぎやかに喋っている。

「どうだい空井くん? とりあえず半熟にしてみたんだが」

「あ、すごくおいしいです。ありがとうございます」

なぜ僕の好みぴったりの、半熟……それも、固まってるところ・7対固まってないところ・3の割合で作っているんだろう。顔を見ただけで目玉焼きの好みがわかるのだろうか、この板前は。もしそうならすごい能力だ。


「龍さんは、いつからここで働いてるんですか?」

「ああ、えーと……お嬢様がいなくなったすぐ後くらいだから、2年前だな。
 2年前からあのバイト募集やってんだけど、応募してきたのはお前が初めてだ」

「それは光栄です」

「まあ、空井くんはいかにもさわやかな名前してるしな」


龍さんとはその後、皿を片付けつついろんな話をした。実家はすし屋なのに、龍さんは洋食派らしい。朝食はパンでなければ動けないのだという。

「でも恰好は板前のままなんですね」

「やっぱこの服がおちつくっつーか……家に帰ったら、すし作るんでなあ」

「最初は驚きましたよ、その恰好……」


と、そのとき、カサカサと音がした。後ろを振り向くと、鏡がある。“サルでもわかる量子電磁力学”Tシャツを着た僕と、板前姿+茶髪のソフト角刈りの龍さんの姿……だけでなく、鏡の上の方に、安全ピンでできたクモのような何か。
上を見上げるときのクセで、ついウインクをする。

――カロリング・ルネサンスッ!
クモのような何かはそう言い残して消えた。断言はできないが、カロリング・ルネサンスの時代に、安全ピンはないと思う。多分。
「流石だな……」と、龍さんがつぶやいた。


カロリング・ルネサンス:Wikipedia
9/12 白石

無意識過剰 第5話

南向きの窓からの朝日で目が覚めた。朝日とともに起きるのがこんなに気持ちよかったとは。部屋のすみでサルノコシカケが育ってもおかしくなかったかつての下宿では決して出来ない体験だ。

いそいそと着替えを済ませる。翡翠さんが注文したという特注の執事服が仕立てあがるまでは、普段着を着ていれば良いと言われた。“THE☆不愉快”Tシャツにするか“Let’s急降下爆撃”Tシャツにするか、散々悩んだが、間をとって“サルでもわかる量子電磁力学”Tシャツにした。ちなみに3枚セットで980円。お買い得だ。屋敷の中で多少浮いているがまぁいいだろう。


朝食はミンティアでない事を祈りながら食堂へと向かう。基本的にこの屋敷では朝食と夕食はそろって食べることになっているらしい。歓迎のつもりだったのかもしれないが、普通の食事を食べる2人に見守られながらのミンティアは物悲しさが漂っていた。

そういえば、この屋敷にはもう1人使用人がいるらしい。昨日は食材の買い出しで出掛けていて会えなかったが、僕より1歳だけ年上で男の人だというから、気は合うだろう。メイド長によれば見習いコックらしい。

食堂へ入ると4人分の朝食が用意されていた。パンのパッケージのように焼いてあるトースト、それに添えてある木苺のジャム、湯気を上げるコーンスープ、それぞれの好みに合わせて焼かれたベーコンエッグ。まさに完璧な朝食。その完璧な朝食を、
板 前 が 用 意 し て い た 。

どういう状況か理解できない。僕のTシャツは屋敷に合ってないと思ったが、これはそれ以上だ。Tシャツを豚骨ラーメン(略)とするなら、これはマシュマロとオムライスのおたふくソースがけベトナム風だ。どちらが変なのかというのはたぶんこの際問題ではない。
コック=板前か、コック≒板前か、コック⊃板前か、頭をフル回転させてみる。

9/11 K

無意識過剰 第4話

「ここは、礼奈(れいな)お嬢様の部屋」

「お嬢様?」


一瞬、ドッキリイベントがあるかと期待したが、メイド長が言うには、お嬢様は今、行方不明らしい。無理だった。この屋敷内で消えたのは確実だというから、女主人の言う『奴ら』が関係しているに違いない。で、それでさわやかさが必要なんだろうか。論理がつながらないぞ、おい。
いなくなったお嬢様の代わりなのか、ピンクの装飾の部屋には、あちこちに写真が飾られている。やはり翡翠さんに似た細身の女の子で、年は10歳くらいだろうか。ちなみに僕は幼女萌えではない(例の豚骨ラーメンパフェ(略)の友人は幼女が大好きである。PTAの敵だ)。


「この部屋は私が掃除するから、あんたは入らないこと」

「はぁ、わかりました」

「じゃあ次の部屋。……」


結局、いくつ部屋があったのか覚えていないが、とりあえず入ってはいけない部屋――翡翠さんの部屋、礼奈お嬢様の部屋、兄の真(まこと)様の部屋と、それからなぜか、三階の一番つきあたりの部屋、の場所はなんとか覚えられた。
ちなみに、真様の通っている高校は、僕の妹と同じらしく、寮に入っているため長期休み以外では帰ってこない、のだという。ちらっと、『奴ら』という言葉が頭に浮かんだ。


その日の夕食は、ミンティアだった。
新入りの初日の食事はメイド長が用意してくれた、が、さすがにミンティア15箱分はきつい。お腹いっぱいになったのかそうでないのかよくわからないまま、その日は眠りについた。

9/9 白石

無意識過剰 第3話

『奴ら』が何なのかはともかく、僕はこの屋敷で働き始めた。僕のためにと割り当てられた部屋は決して大きくはなかったが、今まで住んでいた1ルーム、風呂なし、共同トイレ、南向きの窓(新しくできたマンションにより機能していない)の下宿より快適なことは間違いなかった。


屋敷の案内と仕事の説明をしてくれたのは、この屋敷でメイド長をしている上尾愛(うえおあい)さんという英語で自己紹介したくない人だ。おばさんと呼ぶにはまだ若い気がするが、お姉さんと呼ぶにはいささか勇気がいる……それくらいの年の人だった。メイド長とはいうもののこの屋敷には彼女1人しかメイドはいない。大事なのは雰囲気だろうか。彼女はロングスカートのメイド服をひるがえしながら先を歩いていく。


「この部屋は書斎で、知ってる限り3回は床が抜けてる。掃除のとき腕がつかれるところ。
 時々、本の間からヘソクリが見つかる。」

同じような扉がいくつも並んでいるのだ。説明は聞いているが実は覚えていない。気付いたことだがこの屋敷には異常に鏡が多い。各部屋に1つずつ、廊下にも部屋と部屋の間に1つずつ。メイド長は歩くとき、その1つ1つを目の端で確認している。かなりのナルシストなのか?
鏡はどれも磨き上げられ、チリ1つない廊下を映している。ふと、1つの鏡を見ていると、廊下のすみに、毛玉――それも、着古したトレーナーから出るのを3年分集めたくらいの大きさのもの――を見つけた。掃除の手抜きかと振り向くが何もない。もう一度鏡に向き直る。いつも鏡を見るときのクセが出てしまい、無駄にさわやかに振り返る。
――メソポタミア文明ッ! ジュッ……
そんな風に聞こえる擬音語を残して毛玉が消えた。これは面白い。

そう思っていると、メイド長は、ある1つの扉の前に立ち止まった。


メソポタミア文明:Wikipedia
9/8 K

無意識過剰 第2話

さわやかな草原の、白く清楚で、かなりでかい屋敷が、僕こと空井玲二(そらいれいじ)の新しい職場である。働く環境としては悪くない。僕は今までの下宿を引き払って、ここで住み込みで働くことになった。


面接はあっけないほど簡単に終わった。面接官は、30から40くらいの細身で長身の女の人だった。この家の女主人らしい。月か太陽かでいえば月、図書委員か体育委員かでいえば図書委員、アルトリコーダーで、全部の穴に余裕で指が届くほど長い指の人である。僕がそんなどうでもいいことを考えている間、女主人の方は僕をしっかり見ていたらしい。


「空井さん。私の顔に、なにか」

「あ、いえ、あなたは月みたいな方だなあと」

ぼんやり考えていたことをそのまま口に出してしまい、面接官は薄く笑った。何なんだ。
あとは簡単な応募理由と、好きな食べ物を聞かれたので、不景気のあおりをくって大卒後、就職できなかったから、そして好きな食べ物はミンティア、と答えておいた。


「わかりました。あなたは採用、ということで、明日から働いてもらいます。
 私は水津翡翠(みなつひすい)、この水津家の当主です。どうぞよろしく」

「はあ、よろしくお願いします」

「仕事は、家事の手伝い、……ですかね」


『ですかね』?僕は少し、ひっかかった。それ以外にも何かあるのだろうか。そして、なぜさわやかさが求められるのだろうか。

「あの、どうしてさわやかでなくてはいけないのですか」

翡翠さんは笑みを消し、真剣な顔になって、およそ真剣だとは思えないことを言い出した。


「さわやかさこそが、奴らに対抗する、唯一の手段なのです」



9/7 白石

無意識過剰 第1話

アルバイト募集
あなたもさわやかに働いてみませんか?
経験者、未経験者問いません。さわやかな人
仕事仲間の仲が良いさわやかな職場です
時給 850円~ (さわやかさにより昇給あり)
ご連絡は ~


……。何故このポスターは、ここまでさわやかをプッシュしているんだろう。ここまで全面に押し出されると、逆に胡散臭くなってくる。こんなに胡散臭いのは、三年前、「絶対においしいから!」と言って、豚骨ラーメンパフェ~ちょっとアレな森のキノコ添え~ を出してきた友人以来かもしれない。

とはいえ、ポスター右下の職場の写真はとてもさわやかだ。男子野球部から練習後の汗臭さを無くしたのと、女子吹奏楽部からネチネチした新人いじめを無くしたものを足して2で割れば、こんな雰囲気になると思う。要するに、さわやかで胡散臭い。


しかし、背に腹は替えられない。流石に、仕事を始めないと、明日からの生活にも困ってしまう。ポスターによれば住み込みでもOKらしい。これはとても助かる。時給も決して高くはないが、さわやかさで昇給できるのなら自信がある。

例の豚骨ラーメンパフェ(以下略)を完食した時も、友人に「さわやかにグロいものを食べ切ったね。」と言われた。 「絶対においしい」って言ってたよな? でも今グロいって自分で言っただろ!と思いながらも「友情のためさ☆」と答えておいた。我ながらさわやかだったと思う。


そんなわけで、(世間からの)冷たい風も吹き始めた秋、仕事を始めるため面接会場へと足を運ぶのでした。

9/6 K

無意識過剰 まえがき(目次)

リレー小説「無意識過剰」
私と後輩Kによるリレー小説。2011年9月6日から約一か月間実施していたものです。
キーワードは「さわやか」「鏡」「裁縫」
2012年4月からのそのそと再開しました。キーワードは「優雅」「ハト」「恋」

とある鏡だらけの屋敷にバイト執事として就職した主人公・空井玲二。
はたして彼は幾多の不愉快を乗り越え、さわやかさを振り撒き続けることができるのか?
……という話。
現在第1部をパソコンに打ち込んでブログにアップしています。
第2部の連載に入りました。更新速度は落ちると思います。

《第1部》
第1話 第2話
第3話 第4話
第5話 第6話
第7話 第8話
第9話 第10話
第11話 第12話
第13話 第14話
第15話 第16話
第17話 第18話
第19話 第20話
第21話 第22話

《第2部》
第23話 第24話
第25話 第26話
第27話 第28話
第29話

案内

ここ「残念工房」は小説サイトです。基本的に残念です。
今のところ、私こと白石アオイが管理しています。

管理人・白石アオイ
 頼りがいがあるように見えて頼りにならない残念なモラトリアム人間。
 サンホラとか谷山浩子さんとか好き。


小説に顔文字を使ったりすることはあまりないです。
カテゴリーをクリックすると第1話から読めます。
プロフィール

白石アオイ

Author:白石アオイ

カテゴリ
リンク