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無意識過剰 第10話

「マジで? ……ってことは、あんた、あの貼り紙見て応募してきたのか?
 珍しい人もいたもんだなー」

「はい。翡翠さ……じゃない、ご主人様は今外出していますが、伝言を預かりましょうか?」

珍しい人、のくだりは無視して、話を聞くと、どうやら屋敷内に彫刻刀を置いたままにしてしまったらしく、版画の授業でいつも困っているから寮に届けてほしい、とのことだった。そんなことならメイド長の仕事ではないだろうか。

「分かりました。メイド長に伝え「いやいやいや! それはマズイよ! 俺の部屋入ってもいいから、空井サン、彫刻刀探して届けてくれる?」

? おちゃらけていた真さんが急にあわてだした……何かある。
まあ、あまり深くは追求しないことにして、とりあえず彫刻刀の大まかな場所と、清大路(きよおおじ)高校の寮の部屋番号を教えてもらい、電話を切った。



「彫刻刀、彫刻刀……っと、どこにあるんだろう……」

真さんの部屋は、普段使っていないにもかかわらずかなりゴチャゴチャと物がいっぱいあった。もちろん掃除はされているが、この雑然とした雰囲気を保ちながら片づけるのは大変に違いない。

「たしか勉強机の中にあるって言ってたけど……」

そもそも勉強机が見あたらない。画材やマネキン、布、なんだかよくわからない動物のぬいぐるみなど、一般的な高校生男子の部屋という感じではない。それらをかきわけ、掘っていくと、ようやく小学生用の勉強机にいきあたった。

と、そのとき、廊下を歩く音が聞こえてきた。――これはどうするべきか、真さんが入ってもいいと言ったんだから別にかまわないのか、しかし見つかればメイド長が、それは私の仕事だと言って届けに行くだろう。どこかに、隠れる場所はないか?

――扉が開き、僕は壁にぴったりはりついた。すると、背中に妙な気配を感じて振り向く。
僕は鏡の中にいた。メイド長が、さっき僕の散らかした所を見て、首を傾げているのが見える。こちらへ来る。見つかる!
しかし、メイド長には僕が見えないようだ。鏡を拭いて、部屋にはたきをかけ、出ていった。

9/21 白石


※編集ミスにより第10話に2回分の話が入ることになってしまいましたが気にせずお楽しみください


鏡の中と外を交互に見る。物の配置も何も、鏡映しになっているだけで、鏡の外と何も変わりはないように思える。強いて言うなら、文字が読みにくいことと、はさみが左利き用になってしまったことぐらいだ。左利きの僕にとって、これは非常にありがたい。

とはいえ、彫刻刀も届けなければならないし、こんな怪しげな空間に長居はしたくない。鏡に手を伸ばしてみるが、そこには硬いガラスがあるだけだ。入ってきたときと同じように背中からつっこんでみるが、これも鏡に後頭部を強打しただけに終わった。これは困ったことになったぞ。鏡の中に入ったことがある人が知り合いにでもいればいいのだが、あいにくそんな知人はいない。むしろいてたまるか。例の豚骨(略)はロリコンだったこともあり、アリスを愛読してその話をしていたと思うが、たしか似たような話があった気がする。が、やはり童話。参考にはならないだろう。
さてどうしたものだろうともう一度部屋を見渡したとき、先ほどまでの――何の変わりもないという考えは誤りだったと痛感した。
例のよく分からないぬいぐるみ(よく見てみると、それはハダカデバネズミのぬいぐるみだった)が動いて話しかけてきた。

「いやいやどうも。こげぇなトコに来ちゃるなんて、いなげな人もおるもんじゃねぇ。」

ハダカデバネズミに変な人呼ばわりされた……。
ショックのあまり、返事する言葉が見つからない。よりによって、ハダカデバネズミに、しかも方言丸出しの……
やっと僕が絞り出せたのは、「はぁ……」という言葉だけだった。

9/26 K

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