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無意識過剰 第13話

「とりあえず実、踊ってみろ」

――と、真が言うのだが、文化系男子の俺はタップダンスもバク転もできない。しかたなく、小学校の時習った太極拳を鏡に向かってやってみた。
しかし、太極拳(簡化二十四式)というものは左へ行ったり右へ行ったり、ちっとも鏡に映りやしない。近くを通りがかる人はいるけれど、けげんな顔で俺を見るだけだった。

「なんか地味ねぇ。あんまり何も起こらなさそう……」

「そもそも鏡に映ってないしな」

それならお前らが踊れよ、と思うが、太極拳は心を落ち着ける動きである。太極とは宇宙、そんな小さいことはどうでもいい。
最後の『収勢』という技を終えると、自然と元の位置に戻ることになる。もはや二人は俺の演技を見ていなかったが、ずっと曲げたままにしていたひざを元に戻したとき、目の前の鏡に、かなりファッショナブル(?)なTシャツを着た人が全力で走っていくのが見えた。

「なあ、今の人のTシャツ、なかなかセンス良かったな」

「え? 何言ってるんだ? 今の人、白衣着てたっしょ」

「……さっきの人、イケメンだって評判の地学の実習生よ?」

「え、……いや、たしかに……」

たしかに、”サルでも分かる量子電磁力学”と書かれたTシャツだった。
俺がそう言うと、聖子は少し眉を寄せる。俺の言うことが信じられない様子だ。

「それ本当? うちのお兄ちゃんも同じTシャツ持ってたけど」

「なかなか動体視力いいなー、実」

「動体視力はどうでもいいんだよ。それに、さっきの人、聖子の兄ちゃんに見えたぞ?  文化祭とかで見たことある」

「……ますますありえない」

聖子はおもしろくもなさそうに言った。しかし、ずいぶんとおかしなことであった。やはりこの鏡には何かある。

「じゃあ、次はもっと奇抜なことやってみようぜ」

たとえば変な服を着て3人で踊る、とか。そう真は言う。
やめてくれ、と思った。


9/28 白石

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Author:白石アオイ

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