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無意識過剰 第16話

鏡から出てきた青年は俺が見たとおり、”サルでも分かる量子電磁力学”Tシャツを着た聖子の兄ちゃんだった。

「いや、実はさ、彫刻刀を届けに来たのはいいんだけど、肝心の彫刻刀を忘れちゃったんだ。あの、水津真さんって、どこのクラスか分かる?」

最初に言うべきことはそれなのか。聖子はやれやれといった顔で兄を眺め、真は自分の名前が出たことに驚いたものの、すぐに何か納得したようだった。結局、何一つ分かっていないのは俺だけみたいだった。

「とりあえず、お兄ちゃん、鏡から出ようよ。」

至って冷静に聖子は言った。鏡から出かかった青年と、それを取り囲むネギポン3人。とても前衛的だ。もしこれが心象風景なら、俺は間違いなく卒倒する。が、一応は現実らしい。いっそのこと夢であってほしいが……。
俺が意識を遠いどこかへ飛ばしている間に、話は進んでいたらしかった。

「こっちがお探しの真で、そこのが実。」

テキパキと聖子は紹介を済ませる。何があっても動じないのは、兄ちゃんが不測の事態をしょっちゅう運んでくるからかもしれない。

「あ、真さんごめんなさい。ちょっと鏡の中で迷子になったもんで。」

その兄はといえば、さわやかに笑いながら頭をかいている。

「空井サンって聖子の兄ちゃんだったんだ。同じ名字だとは思ったけど、偶然ってスゲーな。」

驚くべき焦点はそこではない。なごやかな雰囲気のせいで忘れかけていたが、人が鏡から出てきたのだ。俺はペタペタと鏡をさわってみるが、何の変哲もない鏡に思える。

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白石アオイ

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