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無意識過剰 第19話

さっきの人は礼奈お嬢様なのかとも思ったが、写真を思い出してすぐに違うと分かった。僕みたいに鏡に引きずり込まれたのかもしれないし、もしかしたら、最初からここにいるのかもしれない。
サファイア、と言っていた。さわやかな名前だ。

(ん……? この匂いは)

そんなことを考えている僕の鼻腔を、あまりさわやかでない香りがくすぐってくる。このこってりした(略)空間に1つだけ欠けていた何かが、向こうから漂ってくる。
――この匂いはネギの香りだ。
こう見えても(?)嗅覚には自信がある。下宿の外から、隣の住人がネギを切っているのがすぐに分かる程度だ。だから、今回も間違いはない。ネギの本数は1本ではないようだ。

「あっちかな? 行ってみよう」

歩を進める。床はややもすると沈み込んでしまいそうだった。空気が手でつかめるくらいに密度が濃く、ちぎっては投げ、ちぎっては投げて進んでいくたびに、くたびれかけたネギの匂いがいっそう強くなっていく。霧の中のようにぼやけた視界で、僕は人影をとらえた。頭にネギをくくりつけた人が3人。その中の1人は、僕のしっかり者の妹、聖子のように見えた。
その人影に向かって、声の限り、叫ぶ――

「聖子ー! 僕だ、玲二兄ちゃんだよ」

その瞬間、霧が晴れた。僕の思った通り、その人影は聖子だった。頭にネギ、白装束という変ないでたちだったが、ようやく見知った顔を見られて、ずいぶんほっとした。思わず頬がゆるむ。

「やっぱり聖子だ!そんな格好して、何やってるんだ?」

――とまあ、こういうわけなのさ。
そう言って、玲二さんは話を閉じた。波乱万丈の大冒険だ……。

「それで……空井サン、妹を見なかったか?」

真が珍しくおちゃらけた様子なしで聞く。どうやら、彼は彼なりに妹のことを心配していたらしい。

10/4 白石

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Author:白石アオイ

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