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無意識過剰 第6話

「ヨッス! あんたが空井くんか? 俺は八頭龍之介(やずりゅうのすけ)。
 よろしくな☆ 俺のことは、龍さんって呼んでくれ」

今日はミンティアじゃなくてゴメンな、と、板前……龍さんはさわやかに謝るのであった。むしろミンティアはもうやめてください、あれはお菓子です。

「じゃあ、よろしくお願いします」「ああ!」

がっちりと握手をする。でかい手だった。とりあえずテーブルにつきな、と、メイド長がめんどくさそうに言ってきたので、その言葉に従う。


食事の間、翡翠さんもメイド長もあまり喋らない。龍さんばかり、にぎやかに喋っている。

「どうだい空井くん? とりあえず半熟にしてみたんだが」

「あ、すごくおいしいです。ありがとうございます」

なぜ僕の好みぴったりの、半熟……それも、固まってるところ・7対固まってないところ・3の割合で作っているんだろう。顔を見ただけで目玉焼きの好みがわかるのだろうか、この板前は。もしそうならすごい能力だ。


「龍さんは、いつからここで働いてるんですか?」

「ああ、えーと……お嬢様がいなくなったすぐ後くらいだから、2年前だな。
 2年前からあのバイト募集やってんだけど、応募してきたのはお前が初めてだ」

「それは光栄です」

「まあ、空井くんはいかにもさわやかな名前してるしな」


龍さんとはその後、皿を片付けつついろんな話をした。実家はすし屋なのに、龍さんは洋食派らしい。朝食はパンでなければ動けないのだという。

「でも恰好は板前のままなんですね」

「やっぱこの服がおちつくっつーか……家に帰ったら、すし作るんでなあ」

「最初は驚きましたよ、その恰好……」


と、そのとき、カサカサと音がした。後ろを振り向くと、鏡がある。“サルでもわかる量子電磁力学”Tシャツを着た僕と、板前姿+茶髪のソフト角刈りの龍さんの姿……だけでなく、鏡の上の方に、安全ピンでできたクモのような何か。
上を見上げるときのクセで、ついウインクをする。

――カロリング・ルネサンスッ!
クモのような何かはそう言い残して消えた。断言はできないが、カロリング・ルネサンスの時代に、安全ピンはないと思う。多分。
「流石だな……」と、龍さんがつぶやいた。


カロリング・ルネサンス:Wikipedia
9/12 白石

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